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コラム 熱湯コラム「いで湯のあしあと」

県境の秘境宿 中の湯温泉旅館

県境の秘境宿 中の湯温泉旅館

 激動の2022年は気が付いたらあっという間に終わりを迎えていた。2022年の締めくくりは、雪深い信州の山間にある秘境宿で迎えるべく、高山方面へ向かった。

 高山市内でさっと高山ラーメンを食べたらさらに平湯方面へ。安房トンネルを抜けたその先、今回泊まる秘湯宿の看板「中の湯温泉旅館」が見えたらすぐそこのゲート前で停車。宿に電話をするとほどなくしてマイクロバスで宿の方が迎えに来てくれた。送迎車のハイエースに乗り換え、10分ほどぐにゃぐにゃの雪だらけの山道を登る。四駆かつスタッドレスタイヤをはいていないと辿り着けない、文字通りの秘境の宿だ。

 「焼岳登山口」の看板を横目に見ながら、宿に入る。チェックインの際、明日の予定を聞かれた。標高1000Mを超える場所にある、岐阜県と長野県の県境にあるこの宿は、上高地や乗鞍岳、焼岳など、ガチの登山客に大人気の旅館なのである。家族でただのんびり年越ししたいだけのために来た丸腰の我々としては、残念ながら登山どころかスノーシューすらちょっと難しいようであった。しかし、ロビーのラウンジから見えるパノラマの穂高岳は圧巻の絶景。これを見られるだけでこの宿に来た甲斐はあるのではないか。

 年末年始をひたすらのんびり雪景色と温泉を楽しむために来たので、早速夕食前のひとっ風呂を浴びに行く。日本アルプスに囲まれた秘境にあるここの温泉は、言わずもがな源泉かけ流し。惜しみもなくこんこんと地中のマグマから湧くいで湯は、温泉ファンを魅了してやまない硫黄の匂いがぷんぷんする。源泉50度程の硫黄泉はかなり熱く、その成分も相まって内湯に浸かって5分もすると、身体中の血液が全身を駆け巡るのがわかる。今度は冷を求めて露天風呂に出て、小雪がちらほらと舞う露天の湯船に半身を沈めると、ちょうどよい感じで冷たい風が火照った身体をなでる。その繰り返しをしていると、凝り固まった肩も首も腰も足も、全ての不調があっという間に消えていくのだから不思議だ。

 身体の不調だけではない。ここのお湯と湯気を浴びた肌も髪も、しっとりつるつる、びっくりするほど柔らかくなる。優れた温泉成分が身体中の汚れだけを取り去り、必要な養分をインプットするようである。標高1500mで湧き出る熱い源泉は、半端ないくらいクオリティの高い美容液だった。

 風呂から上がったら、2022年を締めくくる夕餉をいただきに食堂へ。キンキンに冷えたビールで乾杯し、山菜や鴨なべ、岩魚の塩焼き、信州牛のほうば味噌ステーキ、信州そばなど、信州ならではの新鮮な地元の食材をつつきながら、夜は更けていく。あとで振舞われる年越しそば分の胃袋を少しだけ開けつつ、部屋に戻って紅白歌合戦をアナログ放送しか入らないテレビで楽しんだ。そう、ここは登山客の山小屋旅館である。そもそもデジタルなんてものはあってはならぬのだ。アナログでも放送が入るだけ驚きである・・・というか、アナログテレビで紅白を見たのは、一体何年ぶりだったろうか。

 翌朝、元旦を迎えた雪山で、残念ながら初日の出を拝むことはできなかったが、朝の露天風呂に浸かっていたら、朝日が神々しく乗鞍岳を照らしているのを拝むことはできた。しんとした降り積もる雪の中を、シジュウカラなどの野鳥がやってきて、宿の人が餌付けした餌をつつくのを見ながらお湯に浸かるのは、何とも言えない極上の時間である。

 チェックアウト後、ラウンジで雪化粧した乗鞍岳のパノラマを臨みつつ、山の水で淹れたコーヒーを味わった。帰り道、雪深い道のりを安房トンネルまで見送ってくれた従業員の方が、何度もお辞儀してくれていたのがとても印象的だった。デジタルデトックスされた環境で大自然に包まれながら良質な硫黄泉に浸かる。2023年の幕開けには十分すぎる秘境宿であった。

 

【中の湯温泉旅館】
住所: 長野県松本市安曇野4467
電話: 0263-95-2407
アクセス: 高山IC -国道158号で平湯へ―安房トンネル出口より送迎約10分、又は松本駅より送迎あり
源泉名: 中の湯温泉
泉質: 単純硫黄泉
温度: 46.3度
効能: アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、慢性湿疹、表皮化膿症、筋肉若しくは関節の慢性的な痛み又はこわばり(関節リウマチ、変形性関 節症、腰痛症、神経痛、五十肩、打撲、捻挫などの慢性期)、運動麻痺における筋肉のこわばり、冷え性、末梢循環障害、胃腸機能の低下(胃がもたれる、腸にガスがたまるなど)、軽症高血圧、耐糖能異常(糖尿病)、軽い高コレステロール血症、軽い喘息又は肺気腫、痔の痛み、自律神経不安定症、ストレスによる諸症状(睡眠障害、うつ状態など)、病後回復期、疲労回復、健康増進

2023年01月11日

コラムフォト

取材担当プロフィール

みなもといずみ
近場から遠出まで、行く先々に温泉マークを見つければすぐに飛び込んでしまうほどの温泉女。出張先ですら、温泉があればタオルとパンツを持ってでかけます。女である以上、温泉に癒される人生は永遠です。行き当たりばったりの旅が大好きな私のあこがれは、スナフキン。点々と旅を続けながらいで湯を求め、足あとを残していきたい!