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コラム 熱湯コラム「いで湯のあしあと」

信州の名湯 白骨温泉

信州の名湯 白骨温泉

 猛暑も過ぎ去り、夏の終わりに近づいた8月末、朝晩少しずつ涼しくなってくると、温かいお湯のぬくもりが恋しくなってくるのは日本人の性である。15年ほど前に訪れて以来、いつか再訪したいと思っていた白骨温泉に目的地を定め、少し遅めの夏休みをとるために一泊で行ってきた。

 今回の宿泊は、長野県のポスターなどで目にする有名な宿、「泡の湯」である。なんといっても、創業110年経ったこの旅館の持つ、風情豊かな広い混浴露天風呂が目玉である。
街中はまだ残暑が残るというのに、平湯から安房峠を抜けるとまるで別世界のようにひんやりとした空気になる。さらに森の中をドライブしていくと、突如現れる白骨温泉郷の中に、ひっそりと佇む宿である。

 チェックインを済ませて部屋に案内されたら、早速例の混浴露天風呂へ入りに行った。女湯の脱衣所には、湯あみも置いてあり嬉しい心遣い。脱衣所から露天風呂の入り口へ続く階段をそろりそろりと降りながらぬるいお湯に腰まで浸かって、のれんをくぐる。源泉が惜しみなく浴槽に流れ落ちる美しい景色を想像すると、のれんをくぐるときのワクワク感がたまらない。目の前には白濁した野天風呂が広がり、皆各々にゆったりとぬる湯に浸かってくつろいでいる。

 ここの源泉は37度ほどのため、浸かるお湯はかなりぬるめで長時間入っていられる。湧き出す源泉は、炭酸ガスを含む硫黄泉で、空気に触れることにより白濁し、弱い炭酸泉になる。肌には細かくて柔らかい泡がやさしくまとわりつく、まさに「泡の湯」なのである。ぬるいので温まる感じがしないが、長時間浸かっているとこの炭酸泉が体内の血行を促進し、湯上りはぽかぽかして全く冷めることはない。

 1時間ほど浸かっていたらさすがに手がふやけてきたので、いったん上がって夕食へ向かうことにした。夕食は、信州サーモンや鴨の燻製、胡麻豆腐など美しい八寸から始まり、舌の上でとろけそうな信州牛のステーキ、新鮮で肉付きの良い鮎の塩焼きなど。手作りのコロッケや女将さんが炊いた花豆煮なども相まって、身体にもたれない数々のお料理で身も心も満たされる。

 食後すこし胃を休めてから、再度また混浴に行った。日もすっかり落ち、空には満天の星が広がる。明かりが最小限に抑えられているため、ぬるま湯に寝そべってずっと星空を眺めていると、このお湯、この空間さえあれば何もいらないという気にさえなってくる。慢性肩凝りはどこへやら、この上ない至福感で満たされていく。身体の緊張が解きほぐされ、目に見えない日常のストレスから、心身共にリリースされるのがわかる。

 翌朝も女湯と混浴風呂で3度目のお湯に浸かって、泡の湯名物温泉粥の朝食をいただいた後、後ろ髪をひかれる思いで宿を後にした。今までいろんなお湯を堪能してきたが、ここのお湯は自分ランキングトップ3に入るくらいの素晴らしいお湯である。森の中に囲まれたマイナスイオンたっぷりの野天風呂で、全身泡に包まれるというこれ以上にない脱力法を、昨今のストレス社会に生きる全ての日本人に捧げたいと本気で思った。

 

【白骨温泉 泡の湯】
住所: 長野県松本市安曇白骨4181
電話: 0263-93-2101
アクセス: 大阪・京都方面から東海北陸道 飛騨清見インター経由、中央縦貫道 高山インターより約70分
源泉名: 新泡の湯源泉
泉質: 含硫黄‐カルシウム・マグネシウム‐炭酸水素塩温泉
温度・PH値: 37℃・6.4
色・味・匂い: 無色透明、硫黄味、炭酸味、硫化水素臭
効能: 筋肉や関節の慢性的な痛みやこわばり、神経痛、五十肩、冷え性・胃腸機能低下の改善、ストレス緩和、自律神経不安定症・不眠症・うつ状態の改善、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、アトピー性皮膚炎、ぜんそく、切り傷など

2022年09月14日

コラムフォト

取材担当プロフィール

みなもといずみ
近場から遠出まで、行く先々に温泉マークを見つければすぐに飛び込んでしまうほどの温泉女。出張先ですら、温泉があればタオルとパンツを持ってでかけます。女である以上、温泉に癒される人生は永遠です。行き当たりばったりの旅が大好きな私のあこがれは、スナフキン。点々と旅を続けながらいで湯を求め、足あとを残していきたい!