「敵失は望んでもいない」
トップ杯東海クラシック最終日、三好名物ホール“魔の16番”でドラマがあった。小平智が「敵失」によるチャンスを掴み、新婚後初Vを飾った。
金亨成とともに首位タイスタートの小平は、終始亨成にリードを許しがちな展開で、13、14番と亨成が連続バーディーを決め、その差は3打差に広がる。小平は15番で意地を見せバーディー、2打差で16番ショートへ。前日ハン・スンスが大会ワーストの11を叩いてしまった“魔”の名物ホールだ。
グリーンは奥に細長く狭い上、右は山の斜面、左は急峻な崖の様な斜面で木がグリーンを遮る。おまけにグリーン右サイドには細長~いバンカーもある。距離感とともに正確な方向性が求められるショートホールだ。崖下に落としてしまえばリカバリーは困難を極める。一般のゴルファーであれば、一度フェアウエイに戻す手もありだ。しかし多くのプロは崖下に落としても果敢にピンを狙っていく。プロとしての矜持が許さないのか?2日目には星野陸也が崖下からチップインバーディーを取った。
グリーンに乗せても崖下に落としてもプロの技が試されるここ一番のホール。この日順調にスコアを伸ばしていた金亨成だったが、ティーショットは左の崖下へ…。前日、ハン・スンスの11打の一部始終を直後の組で見ていた金亨成は、「頭のどこかにあった」というスンスの悪夢が自分に降りかかってしまった。だが、崖下からバーディーを奪う選手もいる。このピンチをクリアできれば“優勝”は目の前だ。果敢に崖下からピンを狙うもオーバーグリーン。奥のバンカー横ラフへ…。このホールをトリプルボギーとし、小平、時松に逆転されて首位陥落。どれだけ差をつけていても16番が終わるまで、勝負の行方は分からないのがここ三好西コースだ。まして優勝争いになれば相当のプレッシャーが掛かりミスがでる。この16番でプレッシャーに打ち勝った者だけが勝者になれる。その点からすれば2打差を付けられ先にティーショットを打った小平の方がメンタル的に楽だったに違いない。
「人の失敗は望んでもいないが、あのホールだけは人を見てしまった。」敵失により前組の時松と並び首位タイに躍り出た小平智は、17番でバーディーを決め2打差と引き離す。これで勝負が決まったようなもの、最終18番小平はラフに「すっぽり埋まっていた」セカンドショットを無難に刻む。亨成は2打目を良い位置に付けバーディーチャンスだが、小平にプレッシャーを掛けるも決められずパー、グリーンを叩き悔しがった。逆に楽になった小平はパーパットを沈め、勝利の拳を握りしめた。
優勝を争う上位選手がお互いプレッシャーを掛け合い、魔の勝負ホールに突入する展開はワクワク感いっぱいだ。終盤にある勝負ホールは1日の試合を観戦してきたギャラリーからすれば、一番の見所になる。極端な話、ここを見れば帰っても良いくらい(いや、帰ってはいけません)、魅力にあふれるホールだ。この16番は2012年に改修され更に難しくなっている。グリーン右サイドのバンカーも奥に長くなり、倍くらいの長さになった。コース管理人曰く、この地形などの環境でこの状態を長く維持するのは至難の業という。実際2012年にも豪雨で使用不可能になった。斜面にへばりつくようなグリーンは、内部の排水などを上手く管理しなければならない。長雨や豪雨が続くと水分を含んだグリーンの基礎が崩落してしまうからだ。この名物ホールを維持管理していく困難さを考えると、よりシリアスな感覚で試合を観戦できるかもしれない。これからも多くのドラマが生まれるであろう16番ショートホール。今から来年が楽しみだ。
2017年11月06日