本当はこれだけ頻繁に各地の温泉へ足を運んでいると、半年に1回くらい、私の『秘湯欲』がむくむくとわいてくる。しかし、人が簡単に行き着けないところに所在するのが秘湯であって、当然のことながら、そこらへんのスーパー銭湯へ行くみたいに、「ちょっと秘湯でも行ってくるか」とタオル片手に行けないのが秘湯である。
前回秘湯へ行ったのはすでに1年半以上も前・・・よって、私の秘湯欲はMAXに膨張しきっており、この際だから思いっきり奥地へ行ってみようと、「日本秘湯を守る会」リストを開いた。選んだ場所は、標高2000m級の山々に囲まれた長野・新潟の県境にまたがる秋山郷。ここにある12の集落のうちのひとつ、切明は、秋山郷の中でも一番奥地にある。
相当奥地なのだから気合を入れて行くべきなんだろうが、ちょっと甘かった。豊田・飯山ICを下りてからが長い。本当に長い。ここまで奥地とは誰が想像するだろう?「秋山郷」の大きな看板を通過してから、さらに遠々と辿り着かないかと思うほどの山道を、登ったり下ったりしながら車を走らせる。ここは一体どこなんだ?と、永遠と抜け出せないような地の果てへ来てしまった錯覚に陥る。しかし、遠くに見える山々の頂点に残る雪や、日が差し込んで煌く川面が美しく、それらが不安な心を払拭してくれるのである・・・。
で、やっと着いた。切明温泉に佇む2件の宿のうちのひとつ、「雪あかり」。冬はきっと雪のなかに小さな灯りがぽっと灯って見えるのであろう・・・って、この山道、冬も来れるのか!?などと思いながら、山積みされている薪を横目に、エントランスに入る。しーんとしただだっ広いロビーでチェックインをし、部屋に通された。物音ひとつしない。連休明けだからか、平日だからか?どうやら他に宿泊客はいないようである。
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