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コラム 熱湯コラム「いで湯のあしあと」

東北湯治の代表格 大沢温泉

東北湯治の代表格 大沢温泉

 今年の紅葉を愛でていたら、昨年のちょうど紅葉が綺麗なころ、東北を湯めぐりしたのを懐かしく思い出した。その際に最も記憶に残った温泉宿がある。他にも魅力的な宿が多すぎたので、宿泊こそしなかったが、東北では湯治の代名詞のひとつにも数えられる、岩手県花巻市にある大沢温泉だ。1200年前の伝説から成るこの大沢温泉は、宮沢賢治ゆかりの地でもある。

 多々ある湯治場の代表格で、きっと温泉通の人なら一度は長期滞在してみたいと思う場所ではないだろうか。花巻の温泉街からは少し離れた山里に佇む、木造平屋のエントランスが、理想的な鄙びた感を醸し出す温泉宿である。湯治屋、山水閣、菊水館の3つに分かれているが、湯治屋が最もこの鄙びた感を出している。別の宿をチェックアウトする際に、さんざん朝風呂に浸かったのであったが、どうしてもこの温泉には浸かりたいと思っていたので、立ち寄り湯で入ってみることにした。

 入り口に入って料金を支払い、お風呂に入る前にまずこの宿の隅々まで知りたいと思い(そう思わせる宿なのだ)、徐々に増築されたと思われる宿の中を探検してみた。「探検」という言葉がぴったりなのである。なぜならば、迷路のように奥へと続く通路を行くと、食堂があり、20人くらい入りそうな広めの炊事場があり、階段を上ったり下りたりすると昭和レトロな内湯があり、そこを出ると今度は男女別の露天風呂が現れる。その露天風呂からは、さらに別棟が見え、川のせせらぎを聞きながら露天風呂に浸かることもできるのだ。全て木造で昭和感満載の年季の入った建物は、探検するだけでこれから入る秘湯を想像して心躍らせることができるのである。
一通り探検した後、全部で3種類のお風呂に入ることにした。

 まず初めに、一番初めに惹かれた湯治屋にある「薬師の湯」は、昭和なレトロ風呂である。中に入ると床には小さなタイルが敷き詰めてあり、腰の曲がった小さなおばあちゃんが一人でゆったり浸かっていた。湯治で長期滞在しているらしい。熱いお湯とぬるめのお湯と二種類あり、それらを交互に行ったり来たりした。

 内湯だったこともあり、レトロ湯がやたら熱かったので10分そこそこで再度着替え、次は露天風呂「かわべの湯」へ。11月の晴天を眺めながらひんやりした風にあたってお湯に浸かる。露天のぬるめのお湯に浸かって初めて、その泉質のやわらかさに気づく。源泉がとぽとぽと湧き出る音と、空を舞うとんびの鳴き声以外何も聞こえない。裏庭の紅葉をぼんやり眺め、とろりとした無色透明のぬる湯に浸かってその静かな音を聞いていると、ある種の瞑想体験に似た世界を独り占めできる。

 そして最後は、隣の近代的な建物「山水閣」にある大きな半露天風呂「豊沢の湯」でフィナーレである。岩に囲まれた大きなお風呂はほぼ貸し切り状態で、窓際で半身浴を長々としながら、良質な源泉を身体の中に染み込ませた。

 3つのお風呂から上がると、これまた昭和レトロな休憩室で待たせていた両親と、食堂で遅めの昼食として、すりたてのとろろ蕎麦を食べた。無骨で風味豊かなざるそばをすすりながら、湯だった身体を冷ました。

 東北は秘湯の宝庫であり、湯治の代表格である。これだけ温泉に何度行っても、考えてみたらちゃんとした湯治はしたことがない。温泉に浸かって自炊をし、身体を休めるだけのものなのかもしれないけれど、この空気、環境、泉質が揃えば、たいていの病は自然治癒できると信じた古人の考え方に激しく共感し、湯治文化が守られてきた所以に納得せざるを得ないのであった。

【大沢温泉】
住所: 岩手県花巻市湯口字大沢181
電話: 0198-25-2315
アクセス: 花巻南ICから県道12号を車で約15分、またはいわて花巻空港から車で約30分
源泉名: 大沢温泉
泉質: アルカリ性単純温泉
温度・PH値: 51℃、9.0
色・味・匂: 無色透明・無味・微かな硫化水素臭
効能: 神経痛・筋肉痛・関節痛・五十肩・運動麻痺・関節のこわばり・うちみ・くじき・慢性消化器病・痔病・冷え性・疲労回復・健康増進

2019年12月24日

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取材担当プロフィール

みなもといずみ
近場から遠出まで、行く先々に温泉マークを見つければすぐに飛び込んでしまうほどの温泉女。出張先ですら、温泉があればタオルとパンツを持ってでかけます。女である以上、温泉に癒される人生は永遠です。行き当たりばったりの旅が大好きな私のあこがれは、スナフキン。点々と旅を続けながらいで湯を求め、足あとを残していきたい!
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