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コラム 熱湯コラム「いで湯のあしあと」

奥花巻の竜宮城 山の神温泉

奥花巻の竜宮城 山の神温泉

 前回から東北旅の続きである。酸ケ湯温泉をあとにした翌日、青森から奥入瀬渓谷を散策しながら岩手に入った。目指すところは花巻市。花巻温泉郷といえば東北・岩手でも有名な温泉街で、概ね知られた場所であるが、今回目指すのは花巻温泉街の中心地から少し離れた、山の神温泉の旅館「優香苑」だ。

 花巻南インターを降りて県道を道なりに10kmほど走ると、ひっそり佇む山間の民家の並びの奥に、突然大きな敷地に建つ立派な旅館が現れた。とてつもなく広いロビーに入ると、美しく揃った格子の扉や格天井など、その荘厳さに圧倒される。それもそのはず、この宿は宮大工が作った傑作の結晶なのだ。客室の壁や扉、天井などもロビー同様、細かい技巧で作られた宮大工の芸術を間近に感じることができる。これはお風呂も期待できそうである。

 さて、その素晴らしい客室で一服した後、早速大浴場を目指した。旅館規模に比例して、ここの大浴場は男女共、それぞ内湯・露天が2か所ずつある。どちらも同じ泉質で、若干の温度差があるようだ。まずはメインの大浴場、とよさわの湯へ。露天へ出ると、とてつもなく広い岩造りの立派な大浴場が目前に広がっていた。男女の露天を合わせると、50畳ほどあるという。

 無色で見た目はさらりとした透明のお湯であるが、その湯質はとろりとして濃厚な化粧水のようだ。PH値9を超えるアルカリ性単純温泉である。よく見ると細かく白い湯の花が浮いており、源泉かけ流しを実感できる。内湯より若干ぬるめのちょうどよい温度で、ほぼ貸し切り状態の露天風呂を泳ぐワニのように、ひたすら動き回ってその濃厚化粧水で全身を包み込む。肌寒い外気が火照った顔をなでてちょうどよい。辺りは自然に囲まれた一軒宿のため、ひっそりと静かで自分だけの世界である。なんという優雅なひととき!

 30分ほどゆったり浸かって温泉を満喫した後、夕食会場へ。色とりどりの鮮やかな懐石料理が並べられていた。岩手の白金豚のしゃぶしゃぶをメインに、少し手のこんだ斬新な先付。岩手の地ワイン、エーデルワインの赤をオーダーし、そのまろやかな味わいのワインと共にシメの釜めしまでゆったりと時間をかけて優雅な夕食を味わった。宮大工の宿といい温泉の広大さといい食事の充実性といい、まるでここは竜宮城みたいだな・・・と、ほろ酔いになった頭で、かすかに浦島太郎の気分を味わう。明日夢から覚めてばあさんになってなきゃいいけど。

 翌朝、朝風呂をさっと浴びてこれまた優雅な朝食会場へ。地元でとれた新鮮な野菜から宿特製のカレーライスまで、ありとらゆるメニューの和洋朝食ビュッフェを朝からたくさんいただく。中でも衝撃的な美味しさに驚いたのは、お米。新米で炊いた朝粥の甘さは、これまで食べたお米の中でトップレベルだ。少しふったお塩だけで十分なごちそうになるのだった。

 チェックアウトをしてしばらく広い庭の紅葉を愛でた後、帰り際に隣の大沢温泉に立ち寄り、また湯めぐりをしたが、そのレポートはまた次回に。

 人里離れた岩手の山間に佇む竜宮城のような温泉宿。鄙びた秘湯宿というよりも、隠れた竜宮城と例えた方がぴったりくる山の神温泉は、さらに敷地を拡張して、新たな別館を造る予定をしているようである。花巻空港から1時間以内で来れる、意外に近い竜宮城。日常生活に疲れてゴージャス気分を味わいたい人には是非おススメである。その体験はあまりに素晴らしすぎて、帰宅後、現実に戻ったときの浦島太郎気分はちょっと切ないけれど・・・。

【山の神温泉 優香苑】
住所: 岩手県花巻市下シ沢字中野53-1
電話: 0198-29-4126
アクセス: 花巻南ICから県道12号を車で約20分、またはいわて花巻空港から車で約40~50分
源泉名: 花巻 山の神温泉
泉質: アルカリ性単純温泉
温度・PH値: 41.3℃, 9.4
色・味・匂: 無色透明・無味・微かな硫化水素臭
効能: 神経痛・筋肉痛・関節痛・五十肩・運動麻痺・関節のこわばり・うちみ・くじき・慢性消化器病・痔病・冷え性・疲労回復・健康増進

2019年02月28日

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取材担当プロフィール

みなもといずみ
近場から遠出まで、行く先々に温泉マークを見つければすぐに飛び込んでしまうほどの温泉女。出張先ですら、温泉があればタオルとパンツを持ってでかけます。女である以上、温泉に癒される人生は永遠です。行き当たりばったりの旅が大好きな私のあこがれは、スナフキン。点々と旅を続けながらいで湯を求め、足あとを残していきたい!